1. リスクオフの“常識”が崩れたのは過去に2回だけ
「株が売られる」局面が来ると、投資家は「より安全な資産」に逃げようとします。その結果、
- 債券が買われ、債券価格が上がり、利回りは下がる
- 為替では「安全通貨」(円やスイスフランなど)が買われる(=円高
つまり、株式が売られる一方で、債券や円が買われるという資金の“逃避先”があるのが通常です。いわば、リスクが他の資産クラスにシフトしているだけなのです。
ところが現在の相場では、
- 株が売られ、
- 米国債も売られて金利が急上昇し、
- それにもかかわらずドルも売られて円高が進行している
という、“資金がどこにも逃げていない”という状態が起きています。
これはつまり、
「どこにも資金が逃げていない」=「現金化のための全面売り」
という状態なんですね。
このような局面では、
- 投資家が恐怖で 全ポジションを解消しにいっている
- 特定のファンドが 強制ロスカットされている
- レバレッジをかけていた機関が資産を一括売却している
といった、構造的な混乱が水面下で起きている可能性が高まります。
こうした“三市場同時安”が発生したのは、過去を遡ってもわずか2回だけです。
・2008年のリーマンショック
・2020年のコロナショック(3月中旬)
それほどに、今の状況は“特別な局面”だということです。
2. 今回の株価の下落は“ただの調整”ではない
このような背景から、今回の株価下落は単なる「調整」ではなく、市場の構造に対する不安が引き起こしていると考えるべきです。
たとえば、米国20年債の利回りはわずか2日間で 4.4% → 4.8% へと急騰しました。これは、投資家が債券からも資金を引き上げていることを意味します。
さらに為替市場でも、通常であれば金利上昇はドル高に働くはずですが、今回に限ってはドル円が142円台まで下落(=円高)しています。
金利上昇とドル安が同時に起きているというのは、「米国の財政や金融政策そのものに対する不信」がマーケットに広がっていることを示しています。
つまり、今は「リスクオフ相場」ではなく、「どこにも逃げ場のない現金化圧力相場」なのです。
3. 今回のパニック時に米国債は買われない?──コロナ相場の再来か
2020年のコロナショックを振り返ると、あの時も最初は米国債に逃避資金が流れ込み、金利は急低下しました。
しかし、FRBが3月15日に追加の緊急利下げを行うと、「ここまで利下げしなければならないほどヤバいのか」と市場が逆にパニックに陥り、米国債すら売られ、金利が急騰しました。
今回もそれと極めて近い構図です。たった2日間で20年債の利回りが0.4%も上昇するというのは、通常ではあり得ないレベルの変動です。
ただし、米国債の信頼そのものが崩壊するとは考えていません。米国債はアメリカにとって「最後の砦」であり、FRBと政府はこの防衛線を絶対に死守するはずです。
前回のコロナショック時と同じように、必要があれば再び「量的緩和(QE)」を発動し、金利を下げて何が何でも流動性を供給するでしょう。

今、市場では資金の逃げ場がなくなり、「全面現金化」という極端なリスク回避が起きています。このような混乱期においては、短期的な値動きに振り回されず、構造と背景を冷静に捉える力=金融知性が問われます。
皆さんは、「米国債の破綻か正常化」どちらかに賭けるのであればどちらに賭けますか?私は間違いなく正常化の方向にベットします。